その水をまた凍らすことはできんねんけど元の氷には戻らない。その形な。
氷になってもさっきの形は失われてもう戻ってけえへんし
どこへ行ったのかも分からんやろ。

　あれが白昼夢というものだろうか。わたしは果てのない砂漠に置き去りにされて一人きりになっていた。なんとか一人で生き延びる。生き延びてやる。誰かの助けは？　見渡す限りそんな人影は見当たらないから。歩く歩く歩く歩く、前なのか後ろか分からない、けれどジッとしているのが違うというのははっきりしていた。
　その日の印象に残っているのは、掃いても掃いてもザラっとする足の裏、高い空を飛ぶヘリコプター、頰をなでる風。長いあいだ音信不通の兄が帰ってきた日だった。フラリと姿を現した彼も、彼を目の当たりにした者も、しばらくはなんと言えばいいのか分からなかった。
　その白昼夢みたいなものがその時に見たのか、その時に覚めたのか、それもまたよく分からない。
 

　現代演劇のユニット「下鴨車窓」が主催する「fullsize」は若手の舞台俳優やスタッフの育成を目指す劇団として2016年に立ち上げられました。同年12月に京都市内にて初めての公演を開催し、このたび第二弾の公演として2018年3月に『southeast』を京都市東山青少年活動センターにて上演いたします。
　『southeast』は劇作家田辺剛の初期作品で2002年に同じ会場で初めて上演されました。若者らが自分の進むべき方向を手探りするなかで家族や家の存在の大きさに気づいていく過程を、登場人物それぞれの記憶や白昼夢のようなイメージを交錯させながら描きます。この作品に一年間舞台の基礎を学んできた若手俳優が取り組みます。
　淡々としたリアルな描写と交差するさまざまなイメージから独特な劇世界が立ち現れます。どうぞご期待ください。