下鴨車窓プロデュース ダンス作品

漂着(h/s)

生と死のあわいに漂着する

2021年10月14日(木)-15(金)
京都府立文化芸術会館にて

ABOUT

作品について

劇作家・演出家の田辺剛が代表し京都を拠点に創作・公演をしている現代演劇のユニット「下鴨車窓」は、初めてとなるダンス作品『漂着(h/s)』を2021年10月に京都にて上演します。

今回は物語性の強い田辺戯曲の劇世界(物語世界)を造形するのに、演劇ではなくコンテンポラリーダンスという方法を採用します。戯曲に書かれてあるのはすべてことば(台詞やト書き)ですので、そこから立ち現れる物語の世界もことばをその土台としています。もちろん演劇においては台詞だけでなくそこで演じる俳優の身体も物語世界の造形には欠かせません。しかしいつもことばと緊張関係にある身体をもっと自由に、舞台のうえに解放してみるとどのようなことになるのか、そのうえで、つまりことばを抜きにしても物語世界は表現しうるのか。もともと田辺はことばによる表現への信頼とそれがすべてを支配することの危うさに注意を払ってきました。ことばだからこそ表現できるものがあるはずだという信念と、ことばだけが表現方法のすべてではないはずだという仮説をいつも合わせ持ってきたのです。今回は新たな方法による物語世界の造形への試みです。

ダンス作品を製作するに当たって、今回は京都のダンサーで振付家でもある夏目美和子氏に依頼することにしました。夏目氏はこれまでの下鴨車窓の舞台でも『小町風伝』(2012,兵庫,脚本=太田省吾)や『漂着(edge)』<ROUTE1>(2019,京都)に出演しており、田辺との共同作業をしたことがありました。もともとは田辺が劇場「アトリエ劇研」(京都市左京区/2017年に閉館)のディレクターを務めていたときに、夏目氏のダンスカンパニー「schatzkammer」との出会いがあり、その作品を田辺が高く評価していた経緯もあります。出演者は寺田みさこ、福岡まな実、大谷悠、矢﨑悠悟(元ヤザキタケシ)の四人のダンサーです。作品の出発点となる田辺の戯曲としては『漂着(edge)』<ROUTE1>,『漂着(island)』,『舟歌は遠く離れて』,『その赤い点は血だ』,『新しい音楽の起源』が参照されます。

田辺のなかで「漂着」が付されたタイトルを持つ作品はこれまでに三つあります。『漂着』(2010),『漂着(island)』(2015),『漂着(edge)』<ROUTE1>(2019)です。田辺の創作のなかで「漂着」というモチーフは一つのテーマとしてずっと保たれています。夏目氏は『漂着(edge)』<ROUTE1>(2019)に出演したことも踏まえて、田辺の「漂着」というモチーフに興味を持ちました。
 
「航海者は遭難の危機に臨んで、自分の名と自分の運命を記した手紙を瓶に封じ込め海へ投じる。幾多の歳月を経て、砂浜をそぞろ歩いていて、わたしは砂に埋もれた瓶を見つけ、手紙を読んで遭難の日付と遭難者の意思を知る。わたしにはそうする権利がある。わたしは他人宛の手紙を開封したりはしない。瓶に封じ込められた手紙は、瓶を見つけた者へあてて書かれているのだ。見つけたのは、わたしだ。つまりわたしこそ秘められた名宛人なのである。<中略>つまり、手紙は砂に埋もれた瓶に偶然気づいた人のものであり、詩は『後の世の読者』のものなのだ。」『エッセイ 対話者について』(オシップ・マンデリシュターム著,早川眞理訳,群像社,1998年)
これは、私が2019年に出演した田辺剛さんの演劇作品「漂着(edge)<ROUTE1>」のチラシに付されていた引用文である。作品に対しての概要であり、田辺さん自身の創作行為への拠り所みたいなものとも当時伺ったように思う。今回手がけるダンス作品も、この引用、また自身も関わった「漂着(edge)<ROUTE1>」から出発してみようと思う。「漂着(edge)<ROUTE1>」の中で私に当てられた役というのは、劇中に併存する物語には従属しない、異物として通り過ぎ、停留し、傍観する女であり、唯一台詞を発しない「手紙の入った瓶」(の象徴)という役であったのだが、今回はこの役どころに焦点をあて新たな物語を吹き込み広げることで、私なりの「漂着」を構築していきたいと思う。ダンサーは「手紙の入った瓶」から「瓶を海に投じる誰か」ないし「砂浜で瓶を拾う誰か」に変貌するのかもしれない。
「漂着(h/s)」のh/sはhigan,shigan(彼岸、此岸)を表す。テーマは生と死のあわいである。生というものが見える瞬間には、いつも死の静けさが背後にぴたりと寄り添っているように私は感じる。成長や老化という現象は「何かを失う」ことで成り立つが、生命現象がそもそも生の中に死を内包するものであるのだから、見立てというよりきっとそういうものなのだ。そう思うと死というものは身近で、そこになにか「安堵」にも似た感情がわきあがる。ただ、それはもう悟りのようなものに近く、実際は一喜一憂じたばたしながら人は人生を過ごす。黙す者(例えば手紙の入った瓶、漂着物)に耳を澄ます、それは内に充満しているであろう人の、生の歴史を想像することなのであろう。しかしダンサーが語る言葉とは、振付でありそこに置かれた身体の状態そのものであり台詞ではない。観るものにも「耳を澄ます」姿勢が求められる。だが、情動を湛えた(秘めた)運動、身体が、非常に雄弁であることも事実でありそれを実証できればと思う。
舞台は客席を背景に観客は舞台上から作品を眺める形式をとる予定である。つまり、向こうから観客も観られるという瞬間があるということだ。こちら側とあちら側。生きているものと死んでいるもの。そのあわい。膨大な生と死の堆積の果てにいまがあること、その堆積物にいずれ自分もなっていくこと、そんなことを想像させる作品となればと願う。
夏目美和子
 
戯曲と身体との出会い、そしてそこに現れることばのない物語世界。下鴨車窓の果敢な挑戦をどうぞご期待ください。

SCHEDULE etc.

日程・会場・予約

▽日時

2021年10月
14日(木)19:00/15日(金)14:00 

※受付は開演の40分前、開場は30分前から

▽会場

京都府立文化芸術会館 LinkIcon
tel.075-222-1046

▽料金

一般 3,000円
ペア 5,500円
ユース(25歳以下) 2,500円

※ペアチケットは入場券を二枚一組で販売します
※ユース(25歳以下)には免許証など年齢が確認できる証明書が当日必要です
※当日券は残席数に応じて販売いたします

▽チケット予約

こちら LinkIcon からご予約ください。

『漂着(edge)<ROUTE1>』(2017)より

DANCER&STAFF

出演者とスタッフ

出演

寺田みさこ
福岡まな実
大谷悠
矢﨑悠悟(元ヤザキタケシ)
大石英史

スタッフ

構成・演出・振付 夏目美和子
原案 田辺剛『漂着(edge)』<ROUTE1>,『漂着(island)』,『舟歌は遠く離れて』,『その赤い点は血だ』,『新しい音楽の起源』
照  明 藤原康弘
音  響 佐藤武紀
舞台監督 渡川知彦
演出協力 村川拓也
衣装協力 清水明子
宣伝美術 森本達郎
企画制作 mogamos
主  催 下鴨車窓
助  成 文化庁「ARTS for the future!」補助対象事業

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